論文感想

読んだ論文:日本企業の留学生などの外国人採用 への一考察

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 この論文では日本企業の留学生などの外国人採用の現状を分析する事を通して、留学生出身の外国人従業員と日本企業の採用と雇用をめぐるギャップの考察を主に行なっていた。外国人留学生が日本人学生よりも就職活動が厳しい理由としては日本人学生よりも情報が得られていなかったり、情報を集めすぎて何が重要であるか分からなくなっている点が挙げられていた。外国人留学生の就職支援に関しては日本の大学の日本語教育では日本の企業が求める日本語能力は養われないという指摘、都市部と地方の自治体による外国人留学生の就職支援格差の問題を解決するために個別の地方自治体を超えてネットワークを形成することが必要であると述べられていた。

また就職に関する意識調査によると外国人留学生は希望する仕事に就けるかどうかよりも異文化コミュニケーションの部分で不安が大きいそうだ。このアンケート結果は自分の中で意外なものであった。

最終的に外国人留学生の日本企業への採用における問題点の根幹には日本独自に雇用システムと他国のそれに差異があることを原因と考え、解決策として雇用慣行などの日本企業文化への適応を進めると同時に、外国人留学生にキャリアアップや昇進などのキャリア形成の将来展望を見せる事が何より大事だとまとめられていた。

 

文責:岡

 

論文詳細

著者名:守屋 貴司 (立命館大学教授)

論文誌名・巻号:日本労働研究雑誌 6月号(No.623)

掲載年:2012

出版社:独立行政法人 労働政策研究・研修機構

 

 


書籍・資料感想

読んだ書籍:中小企業の成長を支える外国人労働者

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この本では、中小企業における外国人雇用の実態を明らかにしている。

 

第一章では官公庁の統計を用いて、外国人在留者・労働者の動向を把握している。外国人労働者の6割強が第三次産業で働いているが、高齢化により若い労働者が欲しい企業側と、中高年しか集まらない労働者側の市場のミスマッチが、若い労働力としての外国人雇用につながっている可能性を指摘している。

 

また、外国人労働者が労働市場に与える影響についても触れている。外国人労働者が自国の労働者から職を奪うという主張がよくなされるが、景気後退期には外国人労働者の方が、失業率が高くなるというデータを用いてこれを否定している。また、外国人労働者の導入は「日本人の賃金を低下させるのか」、「自国民労働者の移動に影響を与えるのか(クラウディングアウト)」について、中村ほか(2009)を引用し、

 

①外国人労働者と競合しそうな高卒労働者の賃金はむしろ上昇、日本人賃金を低下させる効果は見られない

 

②外国人労働者の導入が多い地域ほどクラウディングアウト効果は見られるものの、賃金に影響を与えるほど大きくはない

 

ことを述べている。しかし、日本の外国人労働者は雇用の僅か2%程度であり、この先も受け入れがマイナスにならないかどうかは不明である。さらに稲村ほか(1992)を引用し、流動性が高く、少しでも賃金の高い職場があればすぐに移動する外国人労働者はしばしば、中小企業において同企業の日本人よりも高賃金であることを指摘している。若く、よく働く外国人は希少な資源であり、高い賃金を払うことのできない生産性の低い中小企業にとって外国人を雇用することは難しくなっている。

 

第二章では2016年に行われた「外国人材の活用に関するアンケート」の結果を基に、中小企業の外国人雇用の実態により深く踏み込んでいる。回答企業は3924社。全体の約75%が従業員数19人以下の小規模な企業であり、13.3%の企業が外国人を雇用していた。このアンケートの結果から外国人の雇用には人手不足の解消と国際化の二つの側面があることが分かった。外国人を雇用する企業は業績拡大・採算が良い傾向にあり、業績の拡大が採用に追いつかないために人手不足感が生まれており、日本人と同等かそれ以上の賃金を払って外国人を採用しようとしているのではないかと指摘している。新規募集時のオファー賃金で見る限り、外国人を雇用する企業は雇用しない企業よりも賃金競争力が劣るどころか、むしろ勝っているものが多い。国際化の側面としては、企業が外国人を雇用する理由として、外国に人脈、ネットワーク、外国の商習慣、取引慣行に詳しいなどが挙げられることがわかった。これらの能力を活かし、比較的規模の大きい企業では既存事業の国際化、比較的規模の小さい企業では他企業の海外展開支援、在留資格取得代行、職業紹介といった職務を外国人が担っている。

 

 外国人人材が日本人よりも高賃金で雇用されていることが何度か指摘されているが、その例外が技能実習生である。海外への技能移転が本来の目的であるが、安価な労働力として最低賃金で働かされている実態がある。生産性の低い企業が技能実習生に頼って生き残っているために、産業の高度化が損なわれる恐れがある。生活の基盤がない外国人労働者は住居のサポートや日本語教育といった費用がかかるため、決して安価な労働力と呼べない面もある。

 これから大企業では外国人雇用が進んでいくと思われるが、中小企業でも同様に進んでいくかはわからない。現在、外国人を雇用していない企業の8%が「これからも雇用するつもりはない」と回答している。

 

 第三章では、これまでの外国人受け入れに関する政策を確認しつつ、今後、外国人をいかに招き入れるかについて論じている。安倍政権の下外国人受け入れが拡大し、受け入れの判断基準が高度人材か単純労働か、から経済社会のニーズに応じるか否かに変わってきていると述べている。しかし、地域社会・行政は外国人受け入れに消極的であり、開放的な政策と閉鎖的な地域社会というギャップが当事者達の満足度を損ない、外国人を一時的に引き付けるに過ぎない結果になる恐れがあることを指摘している。

 

 文責:魚谷

 

書籍詳細

著者名:日本政策金融金庫 総合研究所

出版年:2017