読んだ論文:東アジア地域における人の移動の決定要因と経済連携協定の課題

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 この論文は、国際的な人の移動に関するマクロ経済的及びミクロ経済的考察を踏まえ、日本と東アジア諸国の統計を組み合わせることにより、高度人材、不熟練労働者、学生、研修生及び商用旅行者など東アジア域内における移動の決定要因を推定することを意図している。高度人材をみると、1990年代の半ば以降、IT(情報通信技術)労働者や科学技術労働者を中心に世界規模の競争が発生した。ILOの研究によれば、北米や欧州の先進国は、高度人材及び留学生に対する規制を緩和し、これら諸国の高度人材に対する追加的需要の半分以上をアジアからの人材によって充足した。東アジアにおける経済統合を構想するに当たって、国際的な人の移動を、地域レベルで、どのように制御することが可能又は必要かという問題へ応えるため、東アジアにおいて、国際的な人の移動の決定要因を特定し、自由貿易協定又は「経済連携協定」の下における国際的な人の移動への対策について論じている。

 

 ミクロ経済論の上からは、国内労働者の教育訓練費用と国外の外国人熟練労働者の賃金等の費用との大小関係が、国内の労働需要のうち、国内労働者と外国人労働者により充足される比率を決定すると考えられる。この比率は、特に、外国人労働者の費用に、どのようなコストを含めるかによって変化するし、為替変動や規制緩和によって変化する。外国人熟練労働者の受入れに当たっては、その資格や言語能力について適正な基準を設定することによって、国内における人的資本投資を促進しつつ、これを補完する形での外国人熟練労働者の受入れを行うことが可能になるのである。その場合、最終的に、どれだけの外国人熟練労働者を受け入れることができるかは、外国人熟練労働者の資格取得及び言語能力の向上のための人的資本投資を、受入れを希望する業界・企業が、どの程度、積極的に実施ないし支援するかに依存する。外国人熟練労働者に関して、「人材の開発なしに、人材受入れはあり得ない」と言うことができる。また、外国人が、段階的に定住・永住する道を整備することも重要である。

 

 こうした積極的な外国人政策への転換にあたっては、企業における雇用管理責任の明確化を図るなどのため「外国人雇用法」の制定と、外国人住民との共生を促進するため、自治体が持つ情報・権限を強化することも不可欠である。

 

 

文責:出張

 

論文詳細

著者名:井口泰

論文誌名:経済学論究,58(3),461-486

掲載年:2004年


読んだ論文:"The Role of Language in Shaping International Migration,"

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この論文では、国際移動を形成する上での言語の役割をより詳細に研究するために、1980年から2009年までの223のソース国からの30OECD目的国の移民の移動と外国人の滞在に関するデータセットを使用していた。母国語が学習対象の言語に言語的に近い場合その言語を外国人が習得しやすい事、また言語を共有する事が大規模な人口移動に関連するという先行研究を踏まえて言語距離と言語多様性が移動にどういった影響を与えるかを分析していた。ここで言語距離というものは習得の難しさなどを表す指標であり、距離が遠いほどその言語は対象の外国人にとって習得が難しいという事を表している。分析の結果として言語が似てる国ほど移民率が高い事が判明し、また言語自体が移住する上でとても大きな影響を持つ事も示唆された。そして英語と非英語圏を比べた場合、言語の近さは後者のグループにとってより重要であるという事も明らかとなった。しかし、言語に多様である国ほど移民の数が少なく、言語に偏りがあると移民がその言語に近い移民が増加する結果となった。後半の部分は直感的に理解できるが前半の部分は直感的にピンとこない部分もあったので意外であった。

 

文責:岡

 

論文詳細

著者名:Adsera, Alicia & Pytlikova, Mariola,

論文誌名:IZA Discussion Papers 6333, Institute of Labor Economics (IZA).

掲載年:2012年

 


読んだ書籍:俺は、中小企業のおやじ

 

 

 

この本は自動車会社であるスズキで長年にわたり代表を務めた鈴木修氏の半生をつづった作品である。どういう風にスズキが発展したきたか、またどういう車がスズキを救ってきたのかだけが記載されているのかと思っていたが、鈴木氏の会社経営に関する考え方が色々な部分に散りばめらていて面白い作品だったように思う。鈴木氏の徹底した現場主義などは会社を経営する上だけでなく、我々が人と付き合っていく上でも重要にしないといけないエッセンスのようなものが含まれてるように感じた。しかし、鈴木氏も述べているがそういった現場主義はどこか鈴木氏のワンマンな手法を象徴しているような気もした。だからこそ、後継者選びで苦労されたのではないだろうか。しかし、鈴木氏の様に「どんな市場でもいいから一番になりたい」などといった貪欲さやその熱はどこか自分の中にも持ちながら生きていく必要があるのかなと感じた。

 

 

文責:岡

 

書籍詳細

著者名:鈴木修

出版社:日本経済新聞出版社

掲載年:2009年