読んだ論文:国際的な人の移動をめぐるアジア戦略

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 わが国には、アジアに適した経済統合を構想し実現する戦略が必要である。この戦略には、モノ・サービスの貿易や投資の自由化に加え、人の移動のマネジメントが含まれるべきだ。そこでは、今世紀になって、グローバリゼーションが先進国主導から新興国主導に転換しつつあるとの認識が重要である。

 

そこで本稿は、1)アジアから欧米への人材移動が、次第にアジア域内移動に代替される動き2)アジア諸国の少子化と高学歴化のなかで労働需給のミスマッチが一層拡大し、域内移動が促進される動き3)巨大な域内経済格差を抱え、低技能労働者や家族移民などマネジメントの困難4)第2世代や第3世代の人材が日本で活躍できる環境の欠如5)多様な人材を企業の活力に生かすマネジメントの遅れについて、理論的及び実証的に検討した。

 

アジアの成長に日本が関与できない背景に、アジアワイドに人の移動のマネジメントを目指す戦略の欠如がある。また、政府の成長戦略においては、出入国管理政策と統合政策を2本柱とする包括的な外国人政策の確立が不可欠である。

 

日本をめぐるアジアの人材移動の動きを観察し、日本が人材受入国であり続けられるかどうかを検証する。特に、21世紀になってからのわが国の外国人人材の動向をデータで 観察しつつ、アジアの新興国からの留学生の増加が果たした役割を評価する。加えて、日本企業からの新興国への人材流出と技術漏洩や、アジア進出の日系企業におけるアジア人材の離職の問題を検討し、その背後にある問題を洗い出し、対応策を検討している。

 

 わが国の地方経済において増加している外国人労働者や外国人住民の状況と外国人政策の現状を検討する。最近の政府の経済戦略は、出入国管理行政による高度人材受入れを強調するものである。しかし、高度人材をひとたび受け入れても日本は拠点とならず、短期間で流出する傾向が続けば人材の多様性は増大しない。特に、既に国内に在留する外国人子弟が高い教育を受け、日本社会で成功してこそ長期的な効果が期待できる。そこで、多文化と多言語の住民を地域社会に統合し多様な人材を企業の活力に生かすため、日本語学習機会の保障を含む国の制度的インフラを整備し、国と自治体レベルの取組を連携させる方策を検討する必要がある。多様な人材が集まっても、地域における統合政策や企業におけるダイバーシテイ・マネジメントを欠く現状では、地域又は企業の活力又は競争力の向上を実現することができない。かえって、相互のコミュニケーションは低下し価値観の違いから摩擦が増加し、深刻な対立に発展しかねない。外国人受入れの社会的コストを考える場合、発生するコストを減らしベネフィットを活かすための投資を分けて考察する必要がある。日本経済の再生の戦略に人の移動を含めたアジア経済統合ビジョンを加えることを検討し、国と地方の連携により包括的外国人政策の基盤整備や企業や大学における人材養成システムの大胆な改革に関して提案を行うことを試みる。

 

 

文責:出張

 

論文詳細

著者名:井口泰

論文誌名:フィナンシャル・レビュー(116),88-114

掲載年:2013年

 


読んだ論文: The Language Problem Issue among Foreign Workers in the Malaysian Construction Industry

 

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 この論文は、マレーシアの建設業界で発生する言語問題に関する従業員とのインタビューの結果を議論している。

 

建設業界の中で外国人労働者の言語問題の問題は新しい問題ではない。

 

 実際、この問題は事故の発生に寄与していると言われている。5人の従業員とのインタビューにより、言葉や書面による言葉の問題は、インドネシア以外の外国人労働者、特にマレーシアの建設産業に到着して間もない外国人労働者に存在することが証明された。

 言語問題は建設業界だけでなくどの業界もが抱える問題だ。仕事への影響だけでなく、一緒に働く従業員とのコミュニケーションがとれないという問題がある。外国人労働者を受け入れる上で言語能力は重要視される。

 

 

文責:政安

 

論文詳細

著者名: NAB Salleh, NBM Nordin, AKBA Rashid

 

 

論文誌名: International Journal of Business and Social Science Vol. 3 No. 11

 

掲載年:2012年

 


読んだ書籍:ルポ 差別と貧困の外国人労働者

 

 

 第一部では、「奴隷労働」とも揶揄されることも多い、「外国人研修・技能実習制度」を使って日本に渡ってきた中国人の過酷な労働状況を概観する。第二部では、かつて移民としてブラジルへ渡った日本人の主に子どもや孫たちが、日本で「デカセギ労働者」として味わう生活と苦労、闘う姿を追う。こうした中国人研修生・実習生と日系ブラジル人を中心に、彼ら・彼女らの心の痛みを描きながら、日本社会をも鋭く映す、渾身のルポルタージュ。日本経済にとって、外国人労働者は都合の良い存在であり続けた。企業の繁栄を支え、あるいは不況企業の延命に力を貸してきた。しかし日本は、その外国人を社会の一員として明確に認識したことがあっただろうか。

 

 中国人研修生の「人間じゃないみたい」、日系人の「あまりにも簡単に首を切られた」という一人ひとりの外国人労働者の声をその現実とともに背景にも迫りながら明らかにしている衝撃的なルポである。
 「現代の奴隷制度」とも評される外国人研修制度、「棄民政策」とも評されている移住政策のもと南米に渡ったブラジル移民が1980年代後半「デカセギ」として還流し、「定住者」として派遣労働を担わされている現実。
 著者は、「外国人研修生」「日系人」の過酷で悲惨な許しがたい労働実態を中国、日本各地、ブラジルでの丁寧な取材で克明に明らかにしている。しかし、本書は人権侵害の悲惨さを訴えるということに止まらず、グローバル化、経済格差を背景に国境を越えてくる「単純労働者」の問題を「私たちの国の民度」の問題として問いかけている。著者が指摘するように「間違いなく、外国人はすぐ隣で生活し」ており、「我々の生活の一部は、確実に外国人労働者へ依存している」。外国人労働者問題を私たち自身の問題として考えさせられる好著である。政治家を含め多くの人びとに読んで欲しいと思う。

 

文責:政安

 

論文詳細

著者名:安田 浩一

出版社:光文社

掲載年:2010年